六田登「F」名言集/Part1 のバックアップ(No.3) |
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自動車レースというのはね、ボーヤ!肉体の優劣や思い込みがそのまま勝敗の決め手となり売るカール・ルイスや瀬古の世界とは訳がちがうのよ。およそどんなカー・レースでも、定められたレギュレーションの中でギリギリまでチューンするわけ!どのマシンが優勝してもおかしくないくらいにね!!そんな極限まで接近した状況では、アクセル踏めば走るなどという、アホみたいな認識や子供じみたクソ自信なんて、屁のつっぱりにもならないのよッ!
次に人命に対する認識!レーサーは自殺者の集団ではないのよ!あなたには、この教習所が象の集会所に見えるらしいけど、この基本的な人命を尊重する安全走行をバカにする限り、オーバー300km/hの極限の戦いを戦う資格がないわッ!
死ぬ前の龍二は、あたしの龍二じゃなかった……
私達は深く愛し合っていた……
なのにあの時の……ホームストレートを駆け抜けていったあのときの龍二は、
あたしをおいてけぼりにして………
何か得体の知れない何かに向かって
逝った……
いや………タモツちゃん、天才なんていねーぜ。
オレもけっこう過去に速い奴を見てきてるが、天才なんてひとりもいなかった…
おそらく速く走る奴は、速く走らなきゃなきゃならねーだけの………
理由があるのさ。
レースがほかのスポーツと決定的に異なる点がここにある。
本当に速い奴等は、どこか深い所にある何かによって、アクセルを踏んでいる。
そして、これは決して女には理解できない領域なんだ。
んー、そーさなア……
つまりさ、ひとりの人間が自分の人生を生きる為には、才能なんてなんのタシにもならないってことさ。
たとえばひとりのシンガーがいる………
彼は歌うわけだ。だがそれは才能があるから歌うんじゃない………
歌わなければ生きていけないから歌う………つまり歌うことが彼の人生なんだ……
もちろん、売れる売れないにかかわらずね。
本当に速い奴も同じだと思う……走らなければ生きていけないんだ。
マジで……
「コンセントレーション? なんスか、それ?」
「人によって様々ちがうが………たとえば自分の中にある負を………走ることによってプラスに替えていこうとする、祈りのような行為さ………」
……むずかしい質問だな。
…なんで走る…か………こんな体でなぜ…走る…………か………
指先にかすかなしびれを感じたのは3年前だ。最初は気にも留めなかった。そして、それが一年ほどたって断続的におこるようになった。
しびれるのは指先だけではなかった。時には足、あるいはひざ、次には目がかすんだかと思うと、その次は耳がゴウ音をたてる。しかも回を重ねるごとに、そいつらは確実に、その範囲と度合いを拡げてくる。二年もたった頃には、完全に発作と呼べるような状態だ。あの夜おまえが見たような………ね……
わかるか、これが……どんなものか……………すさまじい恐怖だ!。
まわりのものすべてにそっぽを向かれてしまうという感覚。たった5センチ先の空間にさえ絶交されてしまうんだぜ!わかるまい
ゆっくりゆっくりと歩いてくる“死”に、オレは、ただ立ちつくし、そして腹の底には絶望的な無力感だけがひんやりと横たわってやがる。
走るのは誰かに勝つためではない!むろん、金や名誉の為ではさらさらない!
オレが走るのは、オレを裏切ろうとしている空間を、もう一度自力でこの手につかみとる為だ!…ゼ…ゼロコンマ1秒速く走ったということは……………ここからあそこまでの距離をオ、オレの………オレだけの力で自由に縮めてやったという証だ!
その時だけ、オレは力強い自分を確認できる!生きている実感ってやつだ!
わかるだろタモツよ!オレは……死ぬまで生きるぜ!
龍二の時がそうだったように、壁を越えた者と、そうしなかった者との間には、共通の言葉すら存在しないくらい、距離ができてしまう。愛し合っているつもりでも、距離は縮まらないわ。
片方が壁の手前で立ち止まっていては………ダメね……
人間にはそれぞれ枠というものがある、つまりフォーミュラやな!これを打ち破るのは、並大抵のことやない。ひょっとしたら、その為に死ぬことにもなりかねん。それぐらい大変なことなんや。そういう大変な問題に他人が口をはさむべきやない。わかるやろ、レースちゅーのんは特にそうや!
そうや、カミカゼ………あの頃はホンマ…………神風特攻隊みたいな気分やった。今の若いもんは、レースを遊び気分でやっとる奴が多いけど………20年前……ホンダが日本で初めてF1に挑戦したあの頃は、まさに特攻隊やったで……。それでも日本人はハンドル握らせてもらえんやったけどな……
それぐらい大変なんや、自分の枠を越えるということは……、せやからアンタに言うわけや!
てめエのようなド素人にゃ、わからねエんだ! このバカヤロオ! レースがどんなに非人間的で残酷な世界か! ゆ、夢なんてもんはなア! たったひとにぎりの恵まれた連中の為にしか存在しねーんだ!
タツ……てめエな…タモツに一生を棒にふれって、けしかけたんだぞッ!!
そんなあなたが、変わったのは、自分の身体の異変に気づいた時から……。あなたは治らない病気で、確実に死に近づいている自分に直面したとき、限られた時間内で、何者かになろうと必死にもがきだしたわ。
………結局、あなたを変えたのは、“死”だった………。
人は、いつかは死ぬわ……。誰もが生まれたその瞬間から、死に向かって不治の病を背負っているようなものだわ。ただ、それを忘れているから、いたずらに時間を空費してしまう。
奇妙だな…
最終的な発作がオレの全身をマヒさせているはずなのに……感覚だけはますます冴えわたってきている。サスの沈み、タイヤのへり、フレームのきしみ。それらが手にとるようにわかるぞ………。エンジンの音……バルブの動き、プラグのスパークぐあいさえ、いや…ピストンの1回1回の運動でさえ…わかる…!
路面だ………路面が見える。特殊アスファルトの粒子ひとつぶが……誰かが落としていった細かなオイルの飛沫の跡……アウトにたまっているタイヤのカーカス………そ、それら全てが…か…輝いて…
………輝いている! 路面だけじゃない、木も草も空も…周りの風景全てが………な…なんてこった………
輝いている、輝いている、輝いている、
オレは…オレはいままでこんな美しい世界に住んでいたのか…!!
そうか…これは…この風景は、オレの生命が初めて見たものなんだ。光も音も、オレの生命、そのものが感じている。
目や耳じゃない!いま、オレの生命は、理不尽な中断に際して、生命そのもので世界を感じようとしている!
ついて来ているか、赤木………オレはいま、おまえの
組み伏す相手がおいしいほど、人間というのは努力をしなくなる。そして、ダメになっていくものだ。
…17年前……オレは地獄に咲いた花を見たのだ…………おまえだ…
あの地獄と化した国土を見て、自分が信じて戦っていたことが過ちだったと知り、オレはあの時、今後どう生きていいのかわからなかった……。だがあの夜、オレのキズをいやしてくれているおまえを見た時、地獄にもまだ咲く花があることを知った。…この芽を摘んではならぬ。そうだ、もう一度生きて、ここに今咲こうとしている芽を、摘まずにすむ社会を作らねばならんと考えた。
ところがどうだ……そうは考えてみたものの……ひとたび生きる決意をしたオレは、オレの中にある業によってやみくもにつき動かされていった。事業家としてオレは鬼になっていった。略奪同然で他人のものを奪い取り、そして24年の朝鮮戦争で、なんと他国の惨劇を利用して、私腹を肥やしていった……まさに業だな……
…生きることはドロをかぶることだ。
17年間、オレはドロまみれになり…………そして偶然にも、おまえと再会した…。17年前のあの花のままのおまえにだ………美しい、なんという美しさだ………おまえと再会して、オレはあらためて自分の薄汚なさを知ったよ……
年月はじつに多くのものを変える。人も社会も………オレはドロまみれになり薄汚れた……だが変わらぬものもあったのだ……おまえだよ静江
死にたくなるもんなんだよ……ふと…な。
聖が死んだからじゃねエ。問題は聖を超えたからなんだ………
壁があるうちはいいんだ……目の前にな。壁を超えようとしゃにむに頑張るだろ………。怖いのはその壁を超えたときさ………自分を支えてきたものがボコッと失くなる……。強くねェんだよ、人間なんてな……………もういいやなんて思っちまう。その壁が高けりゃ高いほど、超えたあとの空白も大きい…
言ってみれば奴もひとつの壁を超えたんじゃな……そしてその直後に、壁の向こうの風景に吸い込まれていってしまった……
なァ、軍馬よ………
人間は生きていく中で超えなきゃならん壁がいくつもある。そしてその壁をひとつずつ超えるたびに命は明滅し、こまかくこまかく生と死をくり返しているんじゃな。なんて危ういんじゃ、人の命というものは……
『女にとって恋愛は生涯の歴史である。
男にとっては単なる挿話にすぎない。』
うまく言えねーが………恐怖というのはよ、次におこる事態を予測するから怖いんだ。わかるかサコ、つまり今が怖いんじゃない。将来を怖がっているだけなんだ。
つまりその、今の自分には予測するだけの余裕があるんだな。他人が火に包まれているのが、自分のこと以上に怖かったのは、それだ。余裕があるというのは行動していないということさ。物事に対処してない、つまり生きてない。そこを突き詰める
ーー 今、なにをすべきかと ーー
瞬間を全力で生きることが恐怖を忘れさせてくれる。まるで転がる石のようなもんだ。
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大人になるってことは、逆らえない流れの中でかなしみを積み重ねることだって………。病気、事故、死、人の気持ち、自分の欲望、別れたりくっついたり、世の中は自分の思い通りにならないことばかりさ。
“夢”ってさァ……ひとりじゃダメなのよね……追い求めるには。孤独で……勝ち目の薄い戦いだから………独りじゃ耐えがたいのよ……だから、ね。どうしても仲間が必要なんだ、赤い糸で結ばれた仲間が………
夢じゃねエ。たぶんオレはあの時、この世とあの世の中間にいたんだろう……そして連中に会えた………龍二も聖もユキも……笑ってやがった……なんの屈託もないきれいな笑顔だった……きれいだった………
死に方はどうあれ、人はあの世にいけば、あんなにきれいに笑えるものだろうか?いや、そうじゃねェ。そうじゃねエとオレは思った………
たぶん、連中は自分の命を丸ごと燃やせたんだと思う。生きてるうちに自分が背負いこんだもの……その全部を自分のものとして丸ごと燃やせたんだ。苦しいことや哀しいこと、喜びやあせり、そして絶望…そんな、生きているうちに遭遇したすべては、決して、ただ単に偶然の出会いだったんじゃない…………それらすべては偶然なんかじゃなく、すべてが、自分の命が呼び寄せたものだったんだ。そして、逝った……
オレは思ったね…へっ……オレは、最初からオレだったわけじゃねエってな………生きて動くも、そして死ぬのも、すべてかかわりあいの中で、はじめてオレはオレだったわけだ。
ーー「む、むずかしいこと言うでねか、軍馬。」
むずかしかねエ…………考えてみりゃ、当たり前のことなんだ。
オレという人間が、最初からいたわけじゃねェ。そうだろ?おふくろに対してのオレがいて、親父に対してのオレがいて、将馬や雄馬に対しての………タモツ・純子・ユキ・ばあちゃん・小森荘の連中・森岡のダンナ・黒井のとっつぁん・安さん・五郎に対するオレ………聖・音也、そしてもろもろのサーキットを走るライバル達………ハンス・オールマン、下町の飲んだくれども………そしてサコ、ピーボー……
みんなはオレだ、オレそのものなんだ………オレが……生きるのも、走るのも、事故るのも、そしていつか死ぬのも、オレのことだし、みんなのことだ、そうだろ!?
……なあ、タモ……夢を持つことはよ……なかなかいいもんだが、同時にすげェ残酷なことでもあるわけでよ……だけどやっぱり夢を持たなきゃ生きていけねーわけだ…………なぜかなァ?
いつからだ? ええ?いつから人間はこんなに、夢食い虫になっちまったんだ…
「憎しみというのは、酒と同じだな……」
「は?」
「ほどほどに飲むには、明日への活力にもなろうが、飲まれてはいかん、溺れるだけだ。」
「……ですが、しらふで生きていける者がおりましょうか……?」
「……うーむ、鋭いことを言う………言われてみれば、そういう者はおらんかもしれん。人間というのは、何かに酔うしか生きてゆけんのかもしれんな!ならば、できるだけ良い酒に酔うことじゃ!はっはっは……」
見ろよ、軍馬……虹が出てるぜ……
愛とか憎しみとか、あるいは勝利や敗北……そういったものは、もしかしたらあの虹のように実態のないものかもしれん……だが哀しいかな人間というやつは、実態がないと知りつつ、やはりそこに7つの色を見、あこがれ、遠い昔から虹を渡ることを夢見つづけてきたわけだ……滑稽なもんだな……なあ、おい…
人間はだれでも生まれ落ちたとき、神様からいくつかの光る玉をもらっておる。光るきれいな大切な玉だ………。ところが、成長するにつれてその玉を、一個ずつ一個ずつ失っていくんだな。人によれば、ひとつも失わんで死ぬまで持っている者もおれば、20歳そこそこで全部なくしてしまう奴もおる。あるいはまた……なくしてしまったが、また得る者もおる。難しいもんだな。
「速いもんだな。」
「そうかよ………」
「周りの物が、恐ろしい速さでふっ飛んでいく…………いつもは実体のある物々が………空虚な風景に変わってしまう。まるで、今までいた空間とは違う別の空間にいるようだ。ふっふ……こいつはなかなか気分がいい。確かに、こいつはイヤな日常を忘れさせてくれるわい。汗を流してへこたれていた毎日が、つまらぬ風景と化し、まるで自分は映画の速回しのようになったそれらと無関係になれるってわけだ。」
「いまさら、不良少年の気持ちがわかってどーすんだよ。」
「なあに、今でも不良少………不良老人なんでな………」
「だがよー、街やハイウェイをぶっ飛ばしているうちは、それでいいかも知れねーけど、レースをやりだすとな………いきなりそれが、日常になっちまってよ……今まで、自分ひとりで悦にいってたところに、追いかけてくる奴はいるわ、前を逃げていく奴はいるわで……たいへんなわけだ。……でそっちに気をとられてると、前はいきなり壁だったりする。」
「わっはっはっは、どこまでいっても、現実は現実ってわけだ……」
「くっくっく、まあそういうこった。」
エンジンがある、こいつはパワーだ。サーキットがある、これはワールド……つまり世界だ。いいかね、タモツ。フレームというものはライフ・スタイルなんだ!
つまり、こうだ。エンジンという生きるパワーがある。ドライバーという生きようとする意志がある。彼らはサーキットという世界の中で、ライバルと戦わなければならない。この過酷な生のいとなみの中で、彼らは時には落胆し、打ち拉がれ、暴走する。絶頂の喜びもあれば、奈落の死もある。フレームをデザインするということは、生き方をデザインすることと等しい。